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東京地方裁判所 平成5年(ワ)12932号 判決 1994年2月10日

原告

右代表者法務大臣

三ヶ月章

右指定代理人

小池晴彦

外三名

被告

オリックス株式会社

右代表者代表取締役

宮内義彦

右訴訟代理人弁護士

林彰久

池袋恒明

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

東京地方裁判所民事第二一部が同庁平成四年(ケ)第九七八号不動産競売事件につき、平成五年七月七日作成した別紙配当表の「交付額内訳」の「現金」の欄のうち、被告に対する現金交付額が二七四万三二〇〇円とあるのを〇円に、原告(市川税務署)に対する現金交付額が八五万三〇〇〇円とあるのを三五九万六二〇〇円に、それぞれ変更する。

第二事案の概要

本件は、原告の交付要求にかかる租税債権の延滞税につき、執行裁判所が、国税通則法及び国税徴収法の適用を誤り、還付金の充当前の本税に対する延滞税について、交付要求の効力を否定した配当表を作成したとして、配当異議を申し出た事案である。

一争いのない事実等

1  東京地方裁判所は、執行裁判所として、被告が抵当権に基づき申し立てた太田宏(以下「滞納者」という。)所有の別紙物件目録記載の土地建物(以下「本件物件」という。)についての不動産競売事件(平成四年(ケ)第九七八号)に関して不動産競売手続を開始し、右物件を売却してその代金が納付されたため、右売却代金の配当期日を平成五年七月七日と指定した。

2(一)  本件競売事件に関し、原告(所管庁市川税務署長)は、平成四年五月二九日、原告が滞納者に対して有する租税債権(昭和六三年分の所得税確定申告に基づく租税債権。以下「本件租税債権」という。)を徴収するため、国税徴収法六八条に基づき本件物件を差し押さえ、その登記を経由するとともに、執行裁判所に対し、滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律二九条二項に基づく右差押の通知及び国税徴収法八二条一項に基づく交付要求書による交付要求をした。

(二)  右交付要求書には、本件租税債権について、その年度を昭和六三年度、税目を申告所得、納期限を平成元年三月一五日、本税を七五万四七〇〇円、延滞税を「法律による金額・要す」との、各記載がある。なお、右交付要求書に記載した本税七五万四七〇〇円は、その納期限である平成元年三月一五日においては、一〇四三万〇八〇〇円であったところ、別紙滞納額推移表のとおり、三回にわたり国税通則法の規定に基づく還付金の充当を行った結果、平成五年五月二八日現在においては、右金額となったものである(<書証番号略>)。

3  原告は、執行裁判所に対し、平成五年六月二四日、原告の有する本件租税債権の額は、配当期日である同年七月七日現在、本税として七五万四七〇〇円、これに対する延滞税として、国税通則法の規定に従って算出した額である三二〇万六五〇〇円(別紙延滞税額計算表の合計三〇八万五〇〇〇円に、右本税に対する平成四年五月二九日から平成五年七月七日まで年14.6パーセントの割合による延滞税一二万一五〇〇円を加算した額)の合計三九六万一二〇〇円である旨記載した滞納現在額計算書を提出した。

4  執行裁判所は、本件交付要求の効力が及ぶのは、本税七五万四七〇〇円に対する延滞税四六万三三〇〇円(納期限の翌日から二か月間は延滞税率7.3パーセント、その後は延滞税率14.6パーセントで計算した額)に限られると解して前記の配当表を作成した。右配当表の記載によれば、原告(市川税務署)に対する現金交付額は、八五万三〇〇〇円、被告に対する現金交付額は二七四万三二〇〇円であったため、原告は前記配当期日において、被告への配当額は〇円であり、原告への配当額は三五九万六二〇〇円とすべき旨の民事執行法八九条一項に基づく配当異議の申出をした。

二争点

1  原告の主張

執行裁判所は、原告が提出した滞納現在額計算書に基づかず、交付要求の効力が及ぶのは、交付要求書に記載された本税七五万四七〇〇円及びこれに対する延滞税四六万三三〇〇円(納期限の翌日から配当期日まで)に限られると判断し、原告に対する現金交付額を右合計一二一万八〇〇〇円のうち八五万三〇〇〇円として配当表を作成したのであるが、これは、以下のとおり、国税徴収法及び国税通則法の適用を誤ったものであって、国税徴収法の規定に従って原告の受くべき配当額を計算すると、その額は三五九万六二〇〇円であり、被告の受くべき配当額は〇円である。

(一) 本件租税債権の本税額は、納期限における当初税額が、本税に対する還付金の充当により漸次減少した結果、交付要求書記載の額に至ったものであるところ、国税通則法に定めるとおり、延滞税はその基礎となる本税の未納が続く限り、その変動する本税の未納額とその期間に対応して発生するものであるから、本税の完納の時点で初めて具体的数額が確定するものである。したがって、本件において原告が、交付要求書の延滞税欄に「法律による金額・要す」と記載した趣旨は、交付要求の時点で延滞税の額を具体的に計算することは不可能であることから、右の時点においては、後に国税通則法の規定に従って算出されるべき金額を要求する旨を明らかにしたものであって、延滞税の額を、交付要求書の本税欄に記載された本税の額に対応するものに限定して交付要求をした趣旨ではない。

(二) 確かに、延滞税の額は、本税の完納前であっても、変動する本税の未納額とその期間に対応して一応は計算し得るものの、その金額は仮の数値に過ぎないものであり、国税通則法上は、本税の完納の時点で初めて具体的な金額が計算され得るのであって、交付要求時において、右仮の数値を算出すべき国税通則法上の根拠はない。

(三) また、交付要求書における延滞税の額については、国税通則法の規定に従って将来計算する旨明示し、滞納現在額計算書における延滞税の額については、右のとおり国税通則法の規定に従って算出した金額を記載し、したがって右は交付要求の内容を補充したに過ぎないものであり、配当の段階において要求債権額を拡張したものではない。

2  被告の反論

(一) 原告の提出した交付要求書によれば、原告の主張する延滞税三二〇万六五〇〇円の算出根拠となる本税の額が全く不明である。執行裁判所の行う債権届出の催告(民事執行法四九条二項)は、当該競売事件に関し、無剰余または超過売却のおそれがあるか否かの判断を可能にするための手続であるから、右届出の内容は、その届出書の記載内容に基づいて債権の現在額が算出可能な記載を行うべきところ、原告の交付要求書には、本税が七五万四七〇〇円であると記載されているのみであるから、本件の場合に、延滞税について交付要求の効力が及ぶのは、右交付要求書に記載された本税七五万四七〇〇円を基礎に算出した額に限られるべきである。

(二) 原告は、交付要求の段階では延滞税の額が確定できないと主張するが、本件租税債権は、当初税額が一〇四三万〇八〇〇円であったものが、三回の還付金の充当により七五万四七〇〇円に減少したというものであるから、各充当前の本税に対する延滞税額は、各充当時において確定し得るものであり、右合計金額を交付要求書に記載することは可能である。

(三) 原告の請求は、配当段階において、交付要求書記載の本税額七五万四七〇〇円に対する延滞税のみならず、還付金の充当前の本税に対する延滞税を請求するものであり、これは配当段階における請求債権額の拡張に類似する行為であるから、認められるべきではない。

3  争点

本件租税債権についての原告の交付要求の効力は、還付金の充当前の本税額が記載されていない場合において、還付金の充当前の本税に対する延滞税についても及ぶか。

第三争点に対する判断

一国税債権の本税に附帯する延滞税は、国税通則法上、納税者が納付した金額が、延滞税の額の計算の基礎となる国税(本税)の額に不足する場合には、その納付された金額は、まず、その本税に充てられたものとされる(六二条二項)ので、本税の未納が続く限り、その未納額と滞納期間に対応して引き続いて発生するものであり、本税が完納された時点で初めて金額が確定する性質のものであるから、交付要求の時点で本税の未納がある場合には、延滞税について具体的な金額を算定することができないことは、原告主張のとおりである。

二1 しかしながら、民事執行法が、債権者に対し、配当要求の終期までに債権届出、配当要求書の提出を義務づけているのは、各債権者の申出金額によって、請求債権額を確定し、執行裁判所が、同法の禁ずる無剰余執行(一八八条、六三条)となるか否か、一部の物件の売却で足りるか否か(一八八条、六一条)等を判断するためであり、加えて、他の債権者が、当該手続において受けられる配当額の有無及びその額を予測し、当該手続に参加するか否かを判断するためであるから、債権届出書等の記載は、右目的にかなったものであることを要するものと解すべきところ、このことは、国税徴収法の規定に基づいて交付要求をする場合においても変わりはない。交付要求の時点において延滞税の額を具体的に確定できないにしても、少なくとも延滞税が付加される可能性のある本税額が記載されていなくては、延滞税額の予測は不可能であり、同法が交付要求書の提出を義務づけた目的は達せられない。したがって、交付要求の効力が及ぶのは、交付要求書の記載自体から、右延滞税の額の限度(上限)が合理的に予測できる範囲に限られると解すべきである。このような解釈は、債権者に困難を強いるものではなく、また、その権利行使を不当に侵害するものではない。

2 これを本件について検討すると、争いのない事実によれば、本件競売事件において原告(市川税務署)が執行裁判所に提出した交付要求書には、本税額が確定金額として記載され、延滞税額については、本税が未納であるため具体的金額を記載することができないとして、「法律による金額・要す」とのみが記載されていることは致し方ないにしても、本件では、還付金の充当があったため、本税額が、当初税額と交付要求書に記載の確定金額と異なっているにもかかわらず、当初税額とそれに続く還付金の充当の経緯が記載されていないところから、延滞税の額を合理的に予測できないことは明らかである。したがって、交付要求の効力が及ぶのは、交付要求書に確定金額として記載された本税とこれに対する延滞税に限られるものといわざるを得ない。

3  そうすると、原告が、本件競売事件における配当段階において、滞納現在額計算書に、右還付金の充当前の本税に対応する延滞税額を記載したとしても、原告には、還付金の充当前の本税に対応する延滞税について配当受領資格がないというべきである。

三よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官佐藤康 裁判官佐藤嘉彦 裁判官竹内努)

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